生地の化学的組み立て

 

イ,生地の混捏

 

混捏はミキシングによって、生地構成物を均一に混ぜることから小麦蛋白から水和によってグルテンを形成することである。

 

1、        小麦粉に水を加えて攪拌分散させると蛋白質は水分を吸収して水和する、

2、        水和した蛋白質は小麦粉粒子から摘出され、お互いの分子同士が接触するとき化学反応によってグルテンという網の目上のネットワークを形成する。

 

3、        このネットワークはミキシング時の接触圧力及び引っ張り斥力反応により分子同士がより多く接触しグルテンの形成が進む。

 

4、        パンの生地の中には、小麦粉の蛋白質と反応して、グルテンの形成及び機能を低下させる、化合物ができる、

 

5、        このため長時間の混捏はパン生地の物性を低下させることになる。

 

6、        グルテン形成と物性低下のプラスマイナスの結果、適度の時間のミキシングは最適のパン生地が出来、その結果、最高のパンが出来る。

 

ロ、,焼き上げたパンのボデイについて

 

ボデイの大きさはパン生地に含まれる炭酸ガス(イースト醗酵の結果生じる)の気泡の分布と大きさによって決定される。

 

1、        気泡の分布と大きさはグルテン膜の性格によって決まる。

2、        炭酸ガス気泡が含まれるグルテン膜は風船ガムのように破れずに伸展して膨らんでいかないといけない。

3、        焼成に入ると炭酸ガスが膨張するので柔軟で強固なグルテン膜が要求される。

4、        もし、澱粉粒子が糊化してパンのボデイが固定するまでにグルテン膜風船が破れると、ボデイの小さな硬いパンになる。

5、        グルテン膜が薄くなく不均質でやわらかくなく脆いと、炭酸ガス圧に耐え切れずに風船が破れ、気泡風船が合体する。

6、        グルテン膜が薄く均質で軟らかいと風船が膨らむ前に破れボデイの小さな肌理の粗いパンになる。

7、        結論として混捏時の生地の硬さが醗酵、ねかし、成型、焼き上げの作業性に影響をおおきく及ぼす。

 

ハ、混捏による生地の変化について

 

混捏による生地の変化は西欧の研究によると、6段階に分けて表現されている。

 

1、        ミキシング

    小麦粉と水とが均一に混ぜる段階で生地は接着剤のように粘性がでる。

2、        ピックアップ

    小麦粉の蛋白質と水が反応し始め、グルテンの形成が始まる、生地は湿ったごつごつの荒い表面になる。

3、        クリーンアップ

    グルテンの形成が進み生地は弾性と粘性の二つの性質を示し、表面が乾いたようになり、ミキサーの壁から離れるようになる。

4、        デベロップメント

    グルテンの形成が完成し生地は均質で乾いた弾性のあり、かつ、よく伸びる状態になる。⇒手で引き伸ばすと生地は薄い膜状に延ばすことが出来る。(通常はここの段階で混捏を終わる)

5、        レットダウン

    完成した生地を更に、混捏すると、表面が湿った状態になり、伸びやすいようになる。

⇒ここまで行くと生地だれして、後の醗酵ホイロ等が出来にくくなる。

 

     

6、        ブレークダウン

     上記の生地を更に混捏すると弾性をうしない、湿った粘着性の強い接着剤状になり、表面は半透明の光沢となる。

 

まとめ、

製パンでは、4のデベロップの段階までで生地の混捏は完成。

うどん、中華麺、餃子の皮は、1、の段階で生地の混捏は完成。ねかせ、圧延の作業工程でグルテンが形成され、4、の段階になる。

 

二、欧米における生地の顕微鏡及び電子顕微鏡によるミクロ構造の研究

 

1、肉眼による観察

 パン生地の表面のなめらかさ、割るときの方向性及び割ってみて内部的に気泡の分布状態

 パンの品質はパン内層のつや肌理が重要となる

2、顕微鏡による観察

 澱粉とたんぱく質の分布状態と生地の方向性

3、電子顕微鏡による観察

 気泡を取り巻く澱粉粒と蛋白質の分布

4、走査型電子顕微鏡による観察

 気泡の膜の表面の状態

 

ホ、パン生地のブレークダウンへの対策

 

1、ミキシングとブレークダウンは小麦粉の種類によって異なる。

 パン用の強力小麦粉はミキシングに対する安定性があり、顕著なブレークダウンはおこらない。

 製菓用の薄力小麦粉は顕著なブレークダウンをおこす。

 

2、ブレークダウンに影響を与える要因には 低分子化合物の添加による変化がある

A,促進する要因

 速効性酸化剤の添加⇒ヨウ素酸カリウム、システイン(還元剤)など

B,抑制する要因

 酸素を抜いた窒素気流中でミキシングする

 リポキシナーゼの添加⇒少量の大豆粉の添加

 臭素酸カリウムの添加