7,砂糖の調理性
スポンジケーキにおける砂糖の造形性
 砂糖には甘みばかりではなく、スポンジケーキ、長崎カステラなどを作るときに優れた造形性を発揮する。
 試しに砂糖量を変化させてスポンジケーキを焼いて見るとよく分かる。

 1,砂糖を入れずに玉子小麦粉だけで焼くとスポンジケーキの中の気泡の状態は全部消えて一つにまとまり中心付近に大きな空洞を作るだけである。→一種の卵焼きになってしまう。

 2,砂糖量を30%から60%80%と増やしていくと徐々にスポンジケーキになってくる。

 3,砂糖量100%の時が一番形よく釜落ちもなく焼ける。

 4,砂糖量を130%160%にしてゆくと焼き上がるまでに表面の水分が蒸発して砂糖が飽和状態になって固くて白い砂糖の板の結晶が表面から1センチくらいの厚さで 出来る。そしてその皮が断熱材になって火力が中まで通らず、内部は半煮えの状態になった。

 このように、1,の砂糖のない玉子の気泡は、安定性を欠いていて、焼成中に泡がつぶれて玉子の水分がでんぷんを糊化するだけに使われてしまい、スポンジケーキにはならない。
2,3,の様に適度の砂糖が含まれていると玉子の水分を砂糖が奪い適度の粘性を与えるので、その泡は丈夫になり、良好なエマルジョンを形成する。小麦粉のでんぷんはこのエマルジョンの中に均一に分散して安定する。このように理想的にでんぷんが分散された生地は焼成してみてもきれいな均一の安定したスポンジケーキができる。

 ブドウ糖の調理性
 ブドウ糖の特徴としては

 ィ、蔗糖と併用しても、甘味も質を落とさない。
 ロ、熱に弱く、焼き菓子では蔗糖より色づきが早い
 ハ、フォンダンへの添加量が10%以下の時細かい結晶をつくる。
 二、飴に用いて、長期保存時のシャリ止めの効果が見られる。
 ホ、その吸湿性によって、ケーキの水分の蒸発を少なくし、老化を遅らせる。
 へ、溶けるときに熱を奪うので、飲料用やチュウインガムラムネなどに使われた場合清涼感を与える。

 ブドウ糖や水飴の種類とその特性用途は下記の如し。

1,結晶ブドウ糖→直糖91%水分9%→酸による糖化、乾燥固化を防止、砂糖と併用して析出防止、熱に弱い→ヌガー、クッキー、ジャム、チューインガム、キャンデー。

2,無水結晶ブドウ糖→直糖100%→水分やデキストリンがなく粉糖になる。熱にやや強い→クリーム用フォンダン、チョコレート、ウェファース用クリーム。

3,精製ブドウ糖(グルシュガー)→直糖88%デキストリン3%水分9%→粉末状で水に溶けやすい、吸湿性少ない、パンに使用してイースト発酵を促進する(イーストフード)になる。→和洋菓子、チューインガム、カステラ、パン、粉末ジュース。

4,液状ブドウ糖(GLS)→直糖42%デキストリン33%水分25%→水飴に比べて甘味度大なり、苦み、飴臭なし、耐熱性あり、着色性少なし。→カステラ、シロップ、ジュース。

5,コーンシラップ(マルエル)→直糖30%デキストリン45%水分25%→水分多く流動性、吸湿性無く飴菓子に適す、砂糖の結晶抑制効果大。→冷菓、アイスクリーム、キャンデー、ドロップ。

6,粉飴(SPD)→直糖32%デキストリン65%水分3%→デキストリンが多い(粘性大)粉末ながら水に容易に溶ける、粘性大。→アイスクリーム、コーヒー、牛乳、ドロップ、クリームサンド。

7,さらし水飴(丸昭印水飴)→直糖40%デキストリン45%水分15%→酸転化飴、一般に多量に使われる水飴、独特の苦み飴臭がある。→ドロップ、キャラメル、ジャム、和洋菓子。

8,酵素系水飴(マルトリッチ)→直糖34%デキストリン51%水分15%→麦芽酵素転化糖、ブドウ糖が少なく麦芽糖が多い、甘味、芳香とも良好、吸湿性少なし、粘度すくなし。→キャンデー、キャラメル、冷菓。

9,ニューフラクト(異性化糖)→水分25%→果糖とブドウ糖のみ型番によって果糖の量が判るようになっている蜂蜜とおなじ甘み→ジュース、飲料、冷菓。

水飴の調理性

水飴は甘味度ではおとり、砂糖の3分の1程度しかない、その為甘味の代用として砂糖と入れ替えることは出来ない。しかし、強い粘性と保水性を持っているので、この特質を利用して下記のような使用法がある。

ィ、フォンダンに添加して、結晶を細かく安定させる。
ロ、長崎カステラに添加して、保水性で老化を防ぎ、長く風味を保つ。
ハ、マシュマロ、チューインガムに粘性を与える。
二、キャンデーのシャリ止めに使用する。
ホ、あんに使用して、品質を向上させ、保存中の老化を防ぐ。
へ、寒天ゼリーに添加して、固まりやすくしたり、泡を安定させたりする。→寒天に粘性がなく溶解温度や周囲温度が高いために、2色寒天ゼリーは作りにくい、このような場合、水飴を添加すれば、低い温度でも固まるようになる、また、水飴を入れることにより、2つの境界線がはっきりして、染みこんだり拡散したりすることがない。

 泡雪ゼリー(ビールゼリー)のときも、水飴を入れると粘性が出て泡が安定し、砂糖量30%のとき水飴30%を添加すれば、品温50度で泡が安定して分離しなくなる。

果糖の調理性
 果糖の溶解性、着色性、アルカリに弱い性質を利用して砂糖の代替えにすることを考えてみた。
 基本的には食感は蔗糖より優れているが、焼き物製品の外観は劣る結果がでた。
 具体的にはホイップクリームは柔らかすぎて造形が悪く、焼きまんじゅうの皮、黄身時雨などは褐色になるので好ましい結果は得られなかった。
 ただし、ドーナッツ、ジャム、ママレードなどに関しては、食味、外観ともによかった。

 スポンジケーキは柔らかく老化が遅いが釜落ちがあり容積小さく表面の褐変 著しい。
 ビスケットは表面の褐変激しく食感がやわらかくぱりっと焼き上がらない。
 ドーナッツは油の臭みがなく老化が遅い。
 ゼリーは透明度があり、口当たりがよい。
 ジャム、ママレードは味よく色鮮明で明るい。
 カスタードクリームはやわらかく口当たりがよい。が、やや褐変する。
 ババロアはやわらかく口当たりがよい。が、薄く着色する。
 焼きまんじゅうの皮はうすく黄色茶色に着色する。
 黄身しぐれはやや茶色に着色する。
 ホイップクリームはやわらかくなりすぎる。

乳糖の調理性
乳糖は、甘味度が低く溶解しにくい性質があるので、これを利用して、添加物として使うとよい。
 フォンダンクリームの甘みを抑えるときすこし乳糖と入れ替えるとよい。
 乳糖のおおきいものは口当たりが悪くなるので、細かい結晶のものがよい。