小麦粉研究 資料提供 末吉製粉所

{1}原麦 

 

原麦の種類によって、薄力粉、中力粉、強力粉に分けられる。

 薄力粉、中力粉⇒軟質小麦、品種としては、米国製のだぶだぶ(WW,ウエスタンホワイトのこと)オーストラリア製のマニトバホワイト等がある。

 準強力粉⇒準硬質小麦、品種としては、米国製HRW(ハードレッドウィンたー)オーストラリア製のSOH(サウスオーストラリアハード)

 マカロニ小麦⇒デユラム小麦、品種としては、アメリカ産のアンバーデユラム、

 強力粉⇒硬質小麦、品種としては、アメリカ産のハードウインター

 

{2}、製粉

 

 小麦粉の製粉工程は次のとおりである。

原料小麦の精選⇒異物除去

調質(テンパリング)⇒2パーセントの水分を原麦にかける。(ローラーミルで割りやすくするため)

ローラーミル⇒6段階程度のロールを通して胚芽や外皮を割り分け胚乳部を粉にしてゆく。

ふるいわけ⇒シフター(篩い機)を使って通称「上がり粉」をつくる

仕上げ⇒上がり粉を必要な性質に応じて混ぜ合わせる

サイロ保管

袋詰め

保冷倉庫保管

出荷

 

{3}、小麦粉の内容

水分⇒14パーセント

たんぱく質⇒8から12パーセント

脂質⇒2パーセント

炭水化物⇒75パーセント(内70パーセントがでんぷん)

灰分⇒1等粉0.3パーセント2等粉0.4パーセント3等粉0.5パーセント

ビタミン⇒B1やナイアシン

色素⇒カロチノイド系色素とフラボノイド系色素を含有している。

フラボノイド系色素は、PHの高い領域で黄色になる。たとえば重曹や鹸水(ピロリン酸ナトリウム等)の添加によって着色する。この性質を利用して、中華面は黄色になる。ケーキは膨張剤として重曹を用い、黄色を濃くすることに利用している。

酵素類⇒酵素はそれ自身は変化しないが、他の成分に働きかけて生地の状態を変化させる。

アミラーゼ(でんぷん分解)、プロテアーゼ(たんぱく質分解)、オキシダーゼ(酸化酵素)

 

{4}、小麦粉の粒径と蛋白質およびでんぷん量

 小麦粉を指先でつまんで練ってみると強力粉はざらつき、薄力粉はヌメる。これは、強力粉は粒径が大きく、薄力粉は粒径が小さいためである。その理由は、強力粉は原料に硬質小麦をつかっており、蛋白分がおおくでんぷんが比較的すくないために、粉になりにくいのである。薄力粉はその逆である。

 

{5}、小麦粉のでんぷん

 その特徴は円形または楕円形の大きいものと、小さい点のようなものと、に別れ、中間の大きさがない。

 

 イ、損傷でんぷん 

小麦を粉砕するとき、ローラーの左右の回転数の違いによりでんぷんの外皮が破れたいわゆる損傷でんぷんができる。この外皮の損傷した部分から水分を早く吸収するので、膨潤が早く、酵素の影響も受けやすく、糊化が早い。通常、パン用粉で、その比率は4パーセントまでといわれる。

 菓子用では生地がべとついたり焼き色がつきすぎたりするので、嫌われ、その比率は1パーセントまでといわれる。

 しかし、これは、酵素の添加によって改善される。

 

 ロ、でんぷんの糊化

 でんぷんに水を加えて加熱すると糊状になる。この現象を糊化という。

 糊化したでんぷんをα化でんぷん、なまの加熱前もしくは加熱後時間の経過したでんぷんをベータでんぷんという。

 

ハ、でんぷんの老化

ベータでんぷんはミセル構造と言われる組織が硬く結合した状態を保っている。

水を加えて加熱すると、このミセル構造がほぐれて組織間に水が入り、でんぷんは水分を吸収して膨潤を始める、さらに、加熱を続けるとでんぷん粒膜が破れて中のでんぷん粒子が水中にとけだす。この状態が糊化と言われる。

 この糊化の状態を冷やすと、ミセル構造の一部が元の状態に戻って硬くなる。これをでんぷんの老化という。

 老化現象は0度、水分30から60パーセントのときに起こりやすい。

 

 この老化現象を回避しα化の状態を維持させるためには、糊化したでんぷんを85度以上で乾燥させて、水分を10パーセント以下にして冷却するか、0度で脱水すればよい。

製品の例を挙げると、即席しるこ、煎餅、おこし、あられ、おかき等である。

 

ニ、アミロースとアミロペクチン

澱粉とは、天然高分子化合物である、Dグルコースの集合体である。このグルコースの集まり方によって、直線的は鎖のようにつながったアミロースと所々枝分かれして網目状につながったアミロペクチンの2種類に分類できる。 

 

 ヨード反応の違いによって、青色に反応するアミロースと紫色に反応するアミトペクチンに分けられる。」

アミトペクチンは粘性が強く、アミロースは粘性が弱く老化も早い。

 この性質を利用して、和菓子を作るときは、ほぼ100パーセントアミロペクチンだけを含有している通称白玉粉(もち米粉)を小麦粉や上新粉に混入して製品の老化をおそくする工夫がなされる。

 

{6},小麦粉の給水量についての考察

 粉の種類によって、当然給水量が違うわけであるが、同一等級の粉でも給水量違う事がある。

 製菓製パンの現場において、常に同じ硬さのドウを作る事は、製品の均一化という観点においても大事なことであるが、適正な給水量を知るという事は、なかなか難しい。

 

 石臼引きの粉は損傷澱粉が多く澱粉自身の給水量が通常の4倍になる

このため給水率が4パーセント上がる

 

普通、強力粉で63パーセント、中力粉で52パーセント、薄力粉で48パーセントである

 

{7},グルテンについて

 

グルテンは神さまが人類に与えられた究極の食品形成素材である。といわれるほど、人工的に作りえない、かつ、天然界においても他に代替のものが無いくらい、優れた性格をもっている。メチルセルロースの誘導体はこれに近いが、味、口ほどけ、火通り等はるかにグルテンにはおよばない。

 

グルテンとは、パン生地で言うドウ、つまり、小麦粉に粉量の半分の水を加えて混捏して出来たものを20分ほど寝かせ、そして、水中にてそのドウをもみ洗いして澱粉を洗い流したあとにできる灰色のチューインガム状のものをいう。

 

一般に、水を含んだグルテンを湿麩、これを乾燥してや3割ほどの重量になったものを乾麩という。

 

グルテンには、でんぷんのほかグリアジニンとグルテニンという二つのタンパク質含まれる。

グリアジニンはねばねばした流動性のある接着剤のような性質をもっていて、小麦でんぷん他、いろんな物質をつなぎ合わせる役目のしてくれる。

グルテニンは堅いゴム上の物質で弾性があり小麦でんぷん等の沈殿を防ぎ生地の柱となって、生地がへたるのを防ぐ。

 

グルテンとはこの二つの性質が融合して生地形成に役立つ様になっている。

 

イ、グルテンの形成を利用した小麦粉生地考察

小麦粉が水と一緒に混捏するとき、捏ねるときに平行にタンパク質が伸びさらに進んで網目状に拡がる。この状態をさらに進めて混捏を続けると多重階層的に編み目が拡がり、外見上生地はなめらかになる。この状態では可逆性があり、たとえば押したり引いたりしても弾性変形するだけで元の形に戻ろうとする。

 

 混捏直後の生地はこのように可逆性を持つが、20分以上寝かすと、グルテンの進展が始まり、可逆性がなくなる。このような生地を、熟成した生地と呼び麺を作るときの重要な行程になる。

 

ロ、グルテンの形成についての科学的考察

SS結合と呼ばれる理論によれば、グルテン中にあるシステンというアミノ酸の一部である、SH基が、酸化して、SS結合して、グリップ力を形成しているといわれる。

 

ハ、グルテンの形成を阻害する要因

塩水でドウを捏ねると、塩がタンパク質分解酵素(プロテアーゼ等)の働きを阻害するので、グルテンは引き締まり腰のつよいドウになる。

@グルテンを捏ねすぎると、SS結合が離れてしまい十分な網目状グルテンが形成されない。

A常温または高温で長期保存した粉は、タンパク質が劣化しているので、グルテンが思うように形成されない。理想的な保存温度は10度以下3度である。

B油脂を多量に使用すると、油脂が先にタンパク質と結合して水とタンパク質と結合をじゃまするので、グルテンの結合力は弱まり製パン性は悪化する。ただし、スポンジケーキやビスケットでは、製品時やわらかくてもろくなるので、それを求めて多量の油脂を使う場合がある。食パン等製パン時には小麦粉の6パーセント以内がよいと経験的にいわれている。

C生乳(無調整乳)を入れると、タンパク質分解酵素(プロテアーゼ等)が活性化されてグルテンの形成が悪くなりパンやスポンジケーキの製品時の容積は小さくなる。ただし、加熱殺菌している調整乳やスキムミルク、コンデンスミルク、を使うと、酵素活性効果がないので、大丈夫である。

Dアルカリ性の物質は、グルテン形成を阻害する(タンパク質を分解してしまう)ので、粉の量が少ないいわゆるリッチな配合のケーキ、クッキーを作る場合は注意を要する。

Eレモン汁等のPH3以下の強酸は、アルカリ性同様、タンパク質を分解するので、大量に使う場合は注意を要する。

 

{8},グルテンの品質測定方法

@小麦粉50cを2525cの水で捏ねる。

Aボール等に入れ25度の水で25分間浸す。

Bたっぷりと水をいれもみ洗いしてでんぷんを洗い流す。→水が濁らなくなるまでたびたび水を換えて洗い流す。

Cペーパータオルの上でころがして水分をとる。(こうして出来たグルテンの目方の2倍が湿麩量のパーセントとなる)

Dこのグルテンを180度のオープンで焼いてふくらみ具合をみる。(10分から15分)

Eこの焼麩のふくらみ具合でグルテンの性格をうかがい知ることが出来る。

 

{9},ドウ、ペースト、バッターとは

イ、ドウとは、小麦粉の半分の重さの水で捏ねられたもの。

ロ、バッターとは小麦粉と同量の水で練ったもの。

ハ、ペーストとは、小麦粉の75パーセントの水で練ったもの。

これらの生地は主にお菓子やパンの生地になる。

それぞれ、性格が違うので捏ね方、ねかし方、保存方法に注意が必要である。

 

水和(→グルテンの形成をおこなうこと)は1,水温 2,混捏 3,熟成(ねかし) 4,保存(長時間熟成) 5、小麦粉以外の物質 によって大きな変化がある。

 

1,水温

グルテンの堅固なボデーを持つ生地を形成するためには、25度が適温であると経験的に知られている。

25度から10度上がるとグルテン形成反応速度は倍になり、従来の混捏法では困難となる。

25度から10度下がるとグルテンの形成反応は半分になり、ねかし熟成の行程を加える必要がある。

2,混捏によるグルテンの形成

混捏時の攪拌機の羽根の周速によって、グルテンの形成の時間はかわる。

周速には、ィ速度、ロ、回転数 ハ、時間  が関係する。

製パン時は、良く捏ねてグルテンの形成がよくなるよう長時間混捏に努める。

スポンジケーキやクッキーのような製菓時には、グルテンの形成が少なくなるように短時間混捏に努める。

 グルテンの形成を少なくする方法としては、ミキサーで捏ねているときに一度に粉を全量入れずにすこしづつ入れてゆく(ミキサーは低速)とよい。もしくは、粉と砂糖を粉体で均一に合わせておき、低速で加水量を全量イッキニ投入し捏ねると(ミキサーは低速)良い。

 これらは、混ぜる回数が少なくすむ割りには均一に混ぜることのできる方法である。

 注意点としては、捏ねすぎるとグルテンが損傷しグルテン網目構造の一部が引きちぎられるため、生地形成の力が弱まってしまう。

 特に製菓用に使う小麦粉はグルテン量が少ない薄力粉であるので、練りすぎには特に注意が必要である。

3,熟成

じゅうぶんに水和させて(捏ねて)、グルテンの形成が理想的に出来たものでも、寝かしておくことによって、さらに水和が進む。その結果生地の弾力性は落ちるが、進展性はよくなる。

 その理由は、寝かしておく時間中に生地中のSS結合の弱い部分が離れて、弾性が減少するためである。

 ペーストの成形やうどんの麺打ちの時にはこのねかしが必要である。

イ、熟成時間と粉の種類

 強力粉と薄力粉では、寝かし時間が違い、その時間差は強力粉=薄力粉*2である。

たとえば、強力粉で40分かかるとすれば、薄力粉は20分、中力粉はその中間の30分である。

4,保存(長時間熟成)

ビスケット生地を冷蔵庫内において8時間ないし24時間寝かしてから使うと良い結果が得られる。

 その理由は、生地中のグルテンがゆっくりと進展して理想的な網目状をつくるからである。

 20度の室温で寝かす場合は、8時間ほど、3度の冷蔵庫で寝かす場合は24時間ほどである。

 

5、小麦粉以外の物質(がグルテンの形成に及ばす影響)

イ、脂質

 脂質はグルテンと強固に結びつき、その、性格をかえてしまう。グルテンと脂質の結びつきは複合体となって進展性を増し、網目構造を創りながらきれいに進展する。

ロ、酵素

 酵素による生地への作用は、

損傷でんぷんには、アミラーゼが作用してドウをやわらげる。

  グルテンには、プロテアーゼ等が働きかけてその力を弱める。

  脂質には、オキシターゼが働きかけて進展性を高める。

  脂質とグルテン複合体には、リポオキシターゼが働きかけてその進展性を高める。

ハ、二酸化炭素

  空気中に存在する二酸化炭素は混捏時に生地中にとけ込み炭酸となって、脂質を酸化し、脂肪酸とグリセリンになって、生地をやわらかくする。

ニ、脂質とアミノ酸

 生地中の脂質やアミノ酸が分解して化学変化を起こし、芳香(フレーバー)を発生する。

 たとえば、パン生地を冷蔵した場合、バターから分解したジアセチルによってフレーバーを生じる。

 

{10}小麦粉の色と小麦粉の熟成度合い

 

イ、小麦粉の色

 白色に近いものほど良い小麦粉である。

  色が付く原因

   @カロチノイド色素で淡黄色を呈する。

    カロチノイド色素は昭和52年までは漂白粉によって漂白してきた。現在は引き立ての粉はやや黒いが、保管熟成中に小麦粉中の酸素によって色素が酸化漂白されて次第に白くなる。

    保管中の小麦粉の酸化度(PH度)で見ると

    挽きたて→PH6.33

    2590日保管→PH5.3〜4.5

 

   追記、

    食品産業に従事する方のためのPH講座

    PH(ペーハーと読む)とは、水素イオン(H+)の濃度を表わす記号です。

    この数値によって、対象の物質の酸度、アルカリ度を示すものです。

    純粋な水は中性と言い表されるが、H+OH+のイオンが同じ濃度で入っている状態でこれは、H+OH+の電荷を持っていることを示しています。水1リットル中の水素イオン濃度は10のマイナス7乗モルなので、このマイナス7乗をとってPH7といいあらわすことにしています。

     このpH7を基準に水素イオン濃度が濃くなって酸性となり、Ph7のときは水素イオン濃度が薄くなってアルカリ性となるのです。

 

 

   A小麦粒の外側(灰分)が混ざると黒ずむ。

   B粒度が大きいと光線を吸収して黒ずむ。

   C粒度が小さいと光線を反射して白く見える。

   たとえば灰分が同じばあい、粒度が荒いほど黒く見える(強力粉など)

ロ、小麦粉の熟成

 小麦粉は挽きたての時よりも、50から90日程度保管したものの方が製パン性がよく、この目的で保管することを熟成するという。

 90日程度保管した粉はPHが下がり、酵素活性も減ってくるので製パン性がよくなるが、それ以上の長期にわたるとPHが下がりすぎて製パン性は悪化する。

 

{11}小麦粉の簡単な測定法

 イ、湿麩

  グルテンの質や含有量を知る方法として、湿麩を創って測るという手軽な方法があります。

 小麦粉50cと25度の水25cとを捏ねてドウを作り、25度の水の中に25分放置する。次に流水中でもみ洗いし、きれいになったら、ぺーパータオルで水分をぬぐって目方を量る。これの倍が湿麩のパーセントである。

 この湿麩の具合がちぎれやすかったり、あるいは流水中に流れ出して良くとれないようであれば、カステラ生地に向く小麦粉である。

 

 ロ、色調

 ベッカー試験といって、ガラス板に基準の粉とみたい粉を三角中を作るように並べ、色の違いを見る、判別しにくいときは、霧吹きで水をしめらせるとよく見えるようになる。→混色試験

 

 ハ、酸化

  小麦粉の酸化度を見ることができれば、粉の熟成度がわかり配合の変化に対応できる。

  小麦粉10cと蒸留水40cを混ぜ、その液もしくは上澄み液のPHを測る。